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コンディションはもちろん、選手の考えていることも読み取りたい | 横浜F・マリノス ジュニアユース | iDEP(イデップ)

作成者: Admin|2023.09.11

指導に息づく
育成年代での自らの経験

G大阪ジュニアユース時代はどのような選手、どういった環境だったのでしょうか。

当時はセレクションがなく一学年で80人くらいいて、(元日本代表MFの)稲本潤一(関東社会人リーグ1部の南葛SC所属)らすごくいい選手がいっぱいました。それが中学1年生のスタートで、タレントたちのなかで上手に生きて残っていったタイプですね。センターフォワードでしたが、センターバックに転向してプロを目指しました。当時はナイター設備もなく、グラウンドは人工芝でもない公園のような場所で練習をしていて、冬は暗くなるのが早いので1時間くらいしかボールが蹴れない。やることは走ることしかなくて、ずっと走っていました。みんなうまかったので監督は『走らせておけば勝てるだろう』と思ってたんじゃないですか(笑)

練習環境が整う現在の選手たちと比べて思うことはありますか。

もっといろいろとコーチたちに教えてほしかったなとは思っています。だからこそ、指導者をしているという面もありますね。プロにはなれないなと見極めたのも早かったです。そのなかでも指導者の方々には可愛がってもらいましたよ。G大阪ユース時代は西村昭宏監督(JFL高知ユナイテッドSCゼネラルマネジャー)が恩師ですが、センターバックは「楽して守れ」とコーチングの大切さを教えていただきました。後ろからタレントぞろいのチームメートを声で動かして楽しかったですね。その時代のコーチングが今の指導にも生きているんじゃないかな

関西で育ってG大阪の下部組織を指導し、現在は関東の横浜F・マリノスのジュニアユースで指導されて、地域差などはありますか。

一番最初に思ったのはサッカー選手の人口、子どもの数は多いなと。全体的なレベルも高いですね。また、指導していて思うのはすごく理解するのが早く、言うことを聞いてくれて、いい意味でやり遂げられる。ただ一方で言いすぎると、そちらに集中してしまうので気をつけています。これまで両方を見てきて、心と頭が早熟な選手は伸び率が高いです。僕が言ったことをやれる、それプラスアルファのことができる選手を育てたいと思っています

G大阪のジュニアユース監督時代は鎌田大地選手、ユース監督時代は堂安律選手と海外で活躍する日本代表選手を指導されました。当時の印象などはありますか。

彼らはもうプロにはなるだろうと思っていました。律は名前を呼んだだけで何を言われるかを感じ取れる選手。聞く力も高かったです。最近の選手たちは誰かにコーチングしているときに、自分のことのように聞き入れることやコミュニケーション能力が少し足りないかもしれません。律はそういう能力に秀でていました。大地はとにかくうまかった。既に現在のような飄々としたプレースタイルで。中学1年生の途中まで指導しましたが、ケガに苦しんでいたという記憶もありますね。大地はユースには昇格しませんでしたが、タイミングもあるものです。ほかのチームに行っても、いずれはプロになるだろうなという才能豊かな選手でした

これまで指導してきた際はイデップのようなデータ管理システムはなかったと思います。使用感はいかがでしょうか。

パソコンを使ってデータ表などを自分で作成していたころと比べて3分の1くらいの手間になりました。データ管理の作業が早くでき、見やすい。アナログな僕でも簡単に作れます(笑)。選手と指導者が悩みなどを共有していけるツールになれば、より良くなっていくのかな。また、サッカーノートだと指導者に預けている間は選手が記入できなくなるので、イデップのように入力するタイプだと便利ですね。選手のコンディションのところだけでなく、選手には思っていることをちゃんと書いてもらい、僕たちはそこから悩みを読み取る力が必要だと思います。もちろん練習中も選手の表情を見て、心の声まで聞くようにすることは僕たちの仕事です

さらなるレベルアップには
海外での大会の経験が必要

ジュニアユース年代(13歳〜15歳)を指導される際に意識することや伝えているメッセージなどはありますか。

「僕が言っていることをそのままやるのはダメだよ」とは伝えています。観客をだますプレーができるのがいい選手。「こうするだろうな」という予想に反して、「ここが見えていたのか」と驚かすような選手が育ってほしいです。教えた以上のことができるように指導していきたい。来年すぐに結果が、ということでもないと思うので3年後、5年後を見据えています。また、選手のためにやったことが日本のためになればいいなと思うし、よく『誰々が育てた』などと言われていますが僕はあまり気にしていません。挫折も大事なことであって、サッカーだけがうまくてもいい訳ではない。結局、人間性ですぐれていないとプロでは通用しないと思います。トップチームキャプテンでジュニア世代から横浜F・マリノス一筋の喜田拓也選手のようなプレーヤーも育てていかないといけません

ジュニアユース年代は体格や精神面の成長スピードの違いが出やすいころだと思います。ユースへ昇格させる選手の判断はどういった点を見極めているのでしょうか。

体はどうしても間に合わない部分があると思うので焦りません。横浜F・マリノスユース、トップチームの横浜F・マリノスの選手としてプレーできるように体も心も成長させていきたいですね。まずは技術と特に判断力や理解力など頭のところをジュニアユースの3年間でしっかり指導し、ユースでは体をしっかり作り、大きくなっていけばチャンスが広がるとの考えでやっています。昇格する選手たちはトップチームのスタイルである(攻撃的でスピーディーな)『アタッキングフットボール』が普通にプレーできる要素があるか、ないかを評価基準です。トップチームが目指すスタイルを具現化できる選手たちが上がっていくべきかなと思います

ジュニアユース世代は思春期を迎え、指導が難しいとも聞きましたが。

僕たちは好きなものでつながっているので、そういう難しさはないかなと思います。ただ、中学1、3年生は昇格、降格の関わるリーグ戦があるのですが、中学2年生はありません。公式戦が少ないので2年生はあまり追い求められていない印象で勝った、負けたという意識が少し弱いかな。3年生になると勝敗が関わってくるので、2年生のときにどう指導するかはすごく大事になります

今後、日本のサッカーレベルを上げるために必要な経験などはありますか。

長年、指導してきて早い年代から海外の大会に出た方がいいなと思います。海外の大会に出ると、相手は本当にサッカーをしている。戦術、戦術しすぎていないというか、自分たちの戦術もしっかりやるけど、修正しながらも戦っている印象です。そういう大会に出て選手が感じるものは大きくて、変われるし、横浜F・マリノスジュニアユースも中学2年生ぐらいで海外に行った方がいい。海外サッカーを見ることも大事ですが実際に行って感じるものは違うし、指導者も影響を受けるだろうし、日本のサッカーのレベルアップにつながると考えています

就任2年目で得点力が上昇傾向になるも
手応えはまだまだ。だから面白い

2020年、横浜F・マリノスジュニアユース監督に就任されました。その前年の19年にはG大阪ジュニアユースを率い、高円宮杯で7大会ぶり4度目の優勝を果たしています。その手腕を買い、育成年代をより一層、強化しようとの考えがあっての招聘だったと思います。

対戦経験もあって強いことは知っていますが、そのクラブが変わろうとしているところに入り、プロとして初めて仕事をしているような感覚です。個人を伸ばそうという元々の良さがあるのでやりやすい部分はありましたが、いろいろと試行錯誤する時間も必要でした。これまでの20年間の指導ではやったことのないトレーニングを試したり、自分自身もどんどんアップデートできるよう心掛けました。選手が伸びるようにメニューを組み立てていけたらなと思って取り組んでいます

就任されて2年目となり、横浜F・マリノスジュニアユースの新しい変化や手応えなどを感じていらっしゃいますか。

まだ何もないです。今の環境で満足することがないので。クラブの方針や考え方もあるなかで、もっとやらなきゃいけないなと思っています。手応えなどを感じている時間はないですね。毎日でも練習がしたいです。それは昔から変わらないし、だいたいは1年スパンなのでそこにギュッと詰めて練習することになります。『大変なお仕事ですね』などと言われますが、だからこそ面白いです。正解のないものなので毎日、反省もしながら指導しています

梅津監督が指導後、得点数が伸びています。

攻撃の方が好きなので。元々はセンターフォワードですし、自分が点を取りたいという考えがあります。それを武器に今までずっとやってきて、自然と攻撃的になるようになっています。また、自分が育成年代当時は、全国大会に行かないとなかなか強いチームと戦えず、ずっと攻めていましたね

今年4月にはFWの田中陽瑛選手がU-15日本代表スペイン遠征のメンバーに選出されました。田中選手はどんな特長の方でしょうか。

飲み込みが早くて、指導したことの吸収がいい。ストロングはシュートという武器があります。決定率が高いですね。ザ・関東という選手で、もっと自分を出してほしいのでキャプテンをやってもらっています

指導するカテゴリーはどの年代が一番、面白いでしょうか。

中学1年生を教えるのが好きですね。サッカーもそうだし、人間的にも伸び代があるので。その年代の指導では自由なところと強制するところのバランスが大事だと思っています。白と黒、グレーでもいい。そこをちゃんと教えられる指導者がいい指導者で、トレーニングで大事にしているところです。僕が育成で大事にしているテーマは『リスクをどれだけ負えるか』。僕たちはリスクをおかしてでも勝ちに行く。そういう勝負にこだわる姿勢を教えたいと考えています。宮本恒靖さん(日本サッカー協会専務理事)がG大阪ユース監督だったときにコーチとして学ばせてもらいましたが、勝つために準備する大切さは今も影響を受けています